DT日記

家を離れた自宅警備員の日記

なぜ「現代仮名遣い」で書かないのか

別に使ふ理由がないから、現代的ではないから、この假名遣を決めた連中が気にくはないから。以上。

ではあまりに不親切なので、ウィキペディアでも読んでろよ、といふ気持ちをぐっとこらへていまの自分の思ひについて書くことにする。

(その前に補足。この記事では「かなづかひ」を「假名遣」と漢字で書く。この字は常用漢字表にある新字体「仮」と同じだが、僕はこの字が大嫌ひなので可能な限り避ける。この「假」の右側は「暇」とまったく同じで、音読みは同じ「カ」である。ここで注意してほしい。「暇」は常用漢字表に掲載されてゐて、「假」よりも画数が多いにもかかはらず、「日反」のような略字になってゐない!)

はじめに「現代仮名遣い」について。これは1986年に公布された内閣告示であり、昭和61年内閣訓令第1号によって各行政機関においては,これを現代の国語を書き表すための仮名遺いのよりどころとするものとするとされた。これ以降、この表記法が「日本のお役所における正書法」となってゐる。ここで、この内閣訓令が効力を持つのはお役所、それも、国の行政機関に対してのみであることに気をつけてほしい。

この「訓令」といふことば、何かで聴きおぼえがあるかもしれない。それはおそらく、ローマ字の「訓令式」ではないかと思ふ。この訓令式ローマ字は小学校の教科書に掲載されてゐるれっきとしたローマ字の表記法であって、これも1954年の内閣訓令による、いまも有効な正書法だ。加へて、ISO 3602といふ国際標準にもなってゐる。

訓令式に対して現代の日本で主流のローマ字表記はヘボン式と呼ばれる方式の亜種である(ここでローマ字とは、アルファベットのことではなく、日本語をラテンアルファベットの26文字を使って書き表すことを指す)。訓令式ヘボン式の差異はいくつもあるが、たとへば「自社製府地図(じしゃ/せい/ふ/ちず)」といふことばがあったとして、これは訓令式では「Zisyaseihutizu」、一般的なヘボン式では「Jishaseifuchizu」となる(このそもそもそんなことばはないのだが…)

自分の名前をアルファベットで書くとき、ヘボンだ訓令だと気にすることが、どれだけあるのか。現状では各自が拘りを持って、好き勝手にローマ字表記を決めてゐる、といふのが実際のところではないかと思ふ。またはキーボードの日本語入力などはフリーダムの極みで、単に個人の習慣やキーの押しやすさで好きなものが選ばれる。ここに政府による強制は存在しない。

ここで假名遣の話に戻すが、現代仮名遣いが政府によってよりどころを示された守るべきルールであり、これに背くことが非難されるべきことなのだとすると、同格の内閣告示・内閣訓令による訓令式ローマ字も同様に遵守すべき基準なのではないか。このどちらかのみを責めたてるのは二重規範である*1

現代仮名遣いは一般の社会生活において現代の国語を書き表すための仮名遣いのよりどころとして公示されたものではあるが、前書きにこの仮名遣いは,科学,技術,芸術その他の各種専門分野や個々人の表記にまで及ぼそうとするものではないともある。つまり私的な文章や技術的な記事を書くにあたって、この假名遣を盾にして非難される筋合はなく、「読みにくい」は単なる個人の感想の域を出ない。

ここまでで「なぜ現代仮名遣いで書かないのか」の理由のひとつ「別に使ふ理由がないから」を説明した。

……とはいっても、現代仮名遣いで書かれてゐない文章が読みにくいと感じるのも道理ではある。出版物・道路標識・そのほか身の周りにある日本語文は、ほとんどすべて現代仮名遣いと新字体で書かれてゐる。

歴史的假名遣は中学・高校の国語科で扱はれるので義務教育を修了した人ならば、「ゐ」「ゑ」などが使用された現代文を読む準備があるはずなのだが*2、実際にはその単元の後には目にする機会がなくなるので、そのまま「読みにくい」といふ認識が残ってしまふことは十分理解できる。

ウェブなどでは現代仮名遣いで書かれない文章*3の使用者に対して、まるで踏み絵のように「お前は本当に仕事でもそんな書き方をするのか?」と批難されることがある。

私は基本的に業務で作成する文書、連絡、あるいは出版社などから原稿料を頂戴して寄稿する記事などには、躊躇なく正格の現代仮名遣いで書く。上記のようなことを一々説明し説き伏せる理由など特にないのと、假名遣に拘ることなどよりも大切なことはいくつもあるからだ。

http://hitode909.hatenablog.com/entry/2013/09/09/130736

この記事を書いたのは id:hitote909 の書いたbookmarkletがきっかけなのだけれど*4、この記事には批難はなく、読みにくいといふ感想と要望が書かれてゐて、それを表明されることは望ましいことではある(むしろはてブにそのような感想がいくつもつくことを期待した)。

ただ純粋に疑問なのだけれど、ライセンスの選択を恐れる必要はありませんは、假名遣を直したところで本当に読みやすくなるのか?

そもそも日本語としてこなれてゐない箇所、翻訳が極めて怪しい箇所、一般的ではない訳語を説明なく残してある箇所が、まだいくつもある。そんな不親切な文書が、本当に読みやすいのか? 「わかりやすい」とコメントしてる人はみな流し読みをして、わかった気になってるのではないか? そんなことを考へると、おそろしくなる。

読みにくい日本語に対してブックマークレットでパッチを当てることは素晴らしい対処法だと思ふし、僕がその立場だったら同じことをするかもしれない。しかし、ひらがなと漢字の数文字を置換する小手先の手段よりは、原文かライセンス本文を各自で読みにいった方がずっと生産的なのではないかと感じる。

それに関して有益な情報なので多くの人が読めるほうが役立つと思うについて。その理窟を持ち出すならば、英語でChooseALicense.comの解説記事を書くのが、もっと多くのひとにライセンスの理解をひろめるベストな手段だったのではないか*5。実際には、想定を上回る人数があの記事を読みにくいながらも読んでるらしいので、私としてはなほさら現代仮名遣いで書く理由がなくなった。

最後に辯明をしておきたいのだけれど、あのdiffについては単純にtypoですね。僕はいつもSKKを使って書いてゐて、現代仮名遣いで書いてから変換するような面倒な手間は経てゐない*6

あとふたつの理由

  • 現代的ではないから
  • この假名遣を決めた連中が気にくはないから

ぐぐれ。

*1:公平のために、政府によるローマ字表記の指針としてはもう一つ「外務省ヘボン式」と呼ばれる方式も存在することを紹介しておく。実際に道路標識や案内板のローマ字表記はこちらに従って書かれることが多い。しかしこれは「フェ」を「Fue」と表記する表記法である。……ほんとにこんなものを支持できるのか?

*2:これは、理系の立場でいふと「高校出てるなら微分も確率も計算できるはず」みたいな話になるのではないか…?

*3:これには、歴史的假名遣に加へて、ギャル文字など、かなを別の記号に置換したもの、ぁぃぅぇぉゃゅょなど小書きにするものなどを含む

*4:それはさておき、これのお蔭でHatena::Letといふサービスを知れたので、とても感謝したい

*5:ただし私は英語が書けない

*6:そもそもSKKは基本的に假名遣にまったく依存しない